京都教育大学附属京都小中学校
国語科主任 國原信太郎 先生
子どもたちの何気ない日常会話を聞いていると、「うそ?」、「マジ?」、「すげー!」、「ヤバイ!」というような単発的なことばを用いて会話を成立させていることがあります。このような会話を聞いていると、「この子たちは、内容を細かく説明したり、描写したりすることがきちんとできるのかな?」と心配になることもあります。パソコンやスマートフォンといった情報処理端末が普及し、ソーシャルメディアをいつでもどこでも簡単に利用できるようになったことで、長文を書く機会が少なくなり、日常的に単発的なことばが増えることになったのかもしれません。
ソーシャルメディアの代表的なものとして、FacebookやTwitter等のソーシャルネットワーキングサービスや、LINEのようなメッセージングアプリが挙げられます。2020年に発表された総務省の調査結果では、2017年時点で中学生の58.1%、高校生の95.9%がスマートフォンを利用しているという結果もありますから、中高生の大多数はソーシャルメディアを利用したことがあるのではないかと思います。ソーシャルメディアは、誰もが気軽に利用することができるのですが、その気軽さゆえに、単発的なことばや、短文が多くなってしまいます。さらに、感情や気持ちを伝える際も、絵文字やスタンプといったものを利用することで、自分の思いや感情を詳しく文字で表現しなくてもよくなります。そうなれば、長文を考えて構成する必要がなくなり、その結果として、表現力や語彙力はどんどん貧弱になっていき、日常生活で用いられることばもますます単発化してしまうのではないかと考えられます。
公益財団法人日本財団は、2020年に全国の17歳~19歳を対象として、「読む・書く」に関する意識調査を行いました。そこでは、「読書は好きか」という質問で「好き」と回答した人が59.7%である一方、「文章を書くことが好きか」という質問で「好き」と回答した人は、29.4%と決して高くはありませんでした。「読むこと」とは違い、「書くこと」は、何もないところから始めなければならず、さらにそこには、語彙力、表現力、思考力、観察力、構成力といったような様々な力が必要となるため、それが「書くこと」へのハードルを高くしているのかもしれません。しかし、好きではないからといって「書くこと」を避けてしまっては、自分の考えを持ち、それを適切に表現していくことがどんどんできなくなってしまいます。「書くこと」により育まれる前述のような力は、学力を向上させるためにも必要な力ですから、苦手意識を持たずに、自らのことばで書く機会を多く持つようにしてください。
その時、大切にしなければならないことは、「何を書くのか」、「どのように書くのか」ということを明確にして書くことです。思いつくままに書くのではなく、しっかりとした構成を練って書くようにすると、相手に伝わる文章が書けるようになります。また、書いた文章は、恥ずかしがらずに誰かに見てもらい、添削してもらったり、アドバイスや感想をもらったりすると良いでしょう。書いた文章は、ひとつの作品と言えます。その作品に様々な意見をもらうことは、自らの成就感の獲得、改善点の発見に繋がります。その成就感と改善点をいかしてまた書いていくことで、「書くこと」に必要な力が確実に高まっていきます。そうなれば、相手にしっかりと自分の思いや考えを伝えられる文章を書くことができるようになり、表現力や語彙力はどんどん鍛えられ、日常生活で用いることばも単発的なものにならず、きっと豊かなものになっていくはずです。
<國原先生略歴>
1978年生まれ。大阪府出身。
研究分野は、教科教育学・初等中等教育学(国語教育)
研究のため佛教大学大学院教育学研究科に在籍中
受賞 第36回 東書教育賞 中学校の部 入選(2021),
第35回 東書教育賞 中学校の部 入選(2020),
第17回ちゅうでん教育大賞 教育奨励賞(2018),
論文 「句会」を通して養う論理的批評力と思考力,
伝統的な言語文化に親しむ生徒の育成を目指して―「歌会の活用」― 等多数