帝塚山大学 教育学部 こども教育学科
准教授・德永加代 先生
第12回「言の葉大賞®」のテーマは「道」。「道」という言葉から何を連想するのでしょうか。通学路、故郷、旅先での風景、これまでの自分の歩み、進路、将来など、学生の文章にはそれぞれの「道」について、考えた言葉があふれています。4年生は、就職について考えた人が多く、選択に迷い悩みながらも、自分の「道」を見つけていきたいという強い意志が表れていました。文章を書くことを通して、自分が考えたことを可視化し、思考を整理していることがうかがえます。「文は人なり」といいますが、その人にしか書けない文章になっています。
「実は私、学校に行っていません。まあ世間では不登校です。こういうものの原因は『いじめ』だと思うが、私はいじめられたわけではない。『なぜ?』と聞かれると答えられない。自分でもわからないからだ。」
これは、私がかつて受け持った中学2年生が書いた「自分史新聞」のトップ記事の一部です。これを読んだ私は、ドキッとしました。自分の素直な気持ちを軽やかに表現している中に、深刻な問題がみえ隠れします。学年文集として残ることも承知して書いた生徒の心の叫びが伝わってきます。自己と対話しながら、今の自分自身を見つめ直したのでしょう。書くことは自己表現の大切なツールになると実感しました。
国際化や情報化の進展に伴って、自分の考えについて説得力を持った言葉で表現する力や的確にまとめて発信する力を育てることが、これまで以上に求められています。このような言葉の力を高めるために何よりも大切なことは、主体的に自分の気持ちや意見を書く機会を増やし、書き慣れていくことです。
教育学部の学生には、経験したことを基に主体的に自分の気持ちや意見を書く機会として「投書」学習活動を設定しています。SNSでの気軽な発信に対して、氏名・職業・年齢・地域を明記して掲載する「投書」は、公の場に言葉を投げかける行為であるといえます。自分の考えを第三者に発信することを通して、今一度自分の考えを明確にしていくのです。
これら投書活動の振り返りでは「他の人の投書を読む中で、こういう考え方もあるのだと多面的に考えることができ、新たな意見や知識が身につき、自分の考えを深めることもできた」と述べています。書くことは個人の営みですが、その書いたものを読み合うことによって、課題を共有し、共に解決のための知恵を出し合うことにもつながっていくでしょう。文章を表現することは自己を表現すること、そして他者との交流を深めていくことになるのです。